シンプルで美しい言葉が次々に紡ぎ出されていくー。
サテティシュ・クマールさんを辻信一さんと加藤登紀子さんが迎えた東京の講演「サティシュおじさんの土と平和のGNH」。私は、まるで詩を詠んでいるような、美しい彼の言葉にすっかり聞き惚れてしまいました。
サティシュさんはイギリスのエコロジー&スピリチュアル雑誌「リサージェンス(再生)」の編集長。E.F.シューマッハー(イギリスの経済学者、『スモール・イズ・ビューティフル』の著者)とガンジーの思想を引き継いだ彼は、イギリス南西部にスモール・スクールとシューマッハー・カレッジを創設し、持続可能な社会と心のありかたを伝えています。
9歳で出家してジャイナ教の修行層となり、18歳で一般社会へと戻ったというサティシュさんは、自分の心や自然と向き合うことを大切にする暮らし方の大切さをこんな言葉で表現していました。
「自分を大切にすることができなければどうやって他の人を大切にすることができるのでしょう? 自分の世話をするのは自分勝手じゃないのです。自分を自分として受け入れられることができれば、すでに偉大なアーティストです」
今の日本に終戦当時の貧しさはないのだから、「成長しなければならない」という考えから早く抜け出して、週に3日働く、3日歌う、1日は自分のために使うのもいいのではないか? 日本人みんながパートタイムジョブになればいい…なんて、スローなお話も飛び出すくらい。仕事に追われず時間に余裕ができれば、土を耕したり自然に触れることができます。自然に触れること、自分の手でつくることは、私たちが日頃触れている消費優先の暮らし方では見落とされがちですが、実はこれが私たちに、自由な時間と自由な心を生んでくれるのです。
「生き物は自然の中でそれぞれの命をありのままに生きているのに、なぜ人間だけがそうできないのでしょうか?」
自然界を観察してみると、全ての生き物がありのままに生きているのに気づきます。例えばリンゴの木はクレジットカードを持っている人にだけリンゴを与えるわけではなく、人間にも動物にも、鳥や虫にも同じように与え続けています。そこには所有の感覚はありません。あるのは自然の摂理「あたえること」と「分かち合うこと」。
資本主義は不公正と貧困を生んだと話すサティシュさんは、各地で環境や搾取の構造が生まれた現代社会では、自然主義への変化、つまり自然を所有することから自然との関係性を大切にした社会へと変化していくことがますます大切になっていくと話しています。そのためには、ひとりひとりが自分らしく生きるアーティストとして暮らし、自由な時間を持ち、自由にお金をマネージメントしていくことが重要になってくると。
彼の母国インドでは現在、農業の近代化によって農地の荒廃が進んでいるそうですが、大企業の進出で機械化が進んだことによって、CO2の排出も増えているのだとか。経営の大型化や大量の農薬使用、遺伝子組み換え農産物の導入などが原因です。日本と第3世界との貿易であたり前のように考えられていることが、実際は地球環境に負荷をかけ、彼らが以前受けていた自然の恵みを奪う結果になるという現実が、世界最高レベルの食料依存率を誇る街、東京で報告されました。
「食べ物を中国やアメリカに頼らない。食べ物とエネルギーを自国でまかなうことがセキュリティーの基本です。食べ物を自国で 生産できなければ、それを確保するための軍事力が必要になります。フードセキュリティーと平和は密接に結びついています。まず食べ物を確保する、それからトヨタやホンダを楽しむといいのではないでしょうか」
「日本の憲法9条は世界で最も優れた憲法です。日本は全ての国に9条を持つべきだと呼びかけるべきです」
経済成長が豊かさの証しであると考えると、私たちは常に成長を続けなければなりません。しかし、その幻想から逃れて自然との関係性を取り戻していくと、地球の全人口60億人が奪い合うことなく、分かち合いながら暮らしていける社会へと変わっていくことができる、という考え方です。そうすれば奪い合うための戦争も必要なくなるでしょう。私たちの目指す「持続可能な社会」のヒントはそこにあるのではないでしょうか?
食料、エネルギー、経済、戦争、平和、自然。全てのつながりの中にある私たちの暮らし。自分達がそのシステムの中で生きていることを再認識すると共に、土に触れるライフスタイルが変革の種になるということが明確にされていく……。「今の経済不況はチャンス」という彼の言葉に、未来への可能性を強く感じた春の1日でした。
最後にお礼の言葉を。サティシュさんの言葉をわかりやすい日本語で伝えてくださった辻信一さん、素晴らしい歌とエナジーを伝えてくださった加藤登紀子さん、さわやかな歌声を会場に響かせたうづ芽さん、運営スタッフのみなさん、素晴らしい講演会をありがとうございました。 |