photo&text by kco_sawada
7月の種まきから5ヶ月。こうざき自然塾の畑にも、いよいよ収穫の日がやってきました。
神崎町といえば発酵の町。自然酒でおなじみの寺田本家を始め、毎年味噌を仕込んでいるこうざき自然塾や天然酵母のパン屋さんなど、地元の食材を使ったおいしい食べ物を作っている場所がぞくぞく増えている所。せっかくそんな素敵な町に来たんだから、素通りするなんてもったいない。
今回の大豆収穫バスツアー、午前の部では、発酵の町神崎の中心的存在である寺田本家の寒仕込みの現場にお邪魔して、酒造りの行程を見学させていただきました。

寺田本家の創業は江戸時代の延宝年間(一六七三?一六八一)。実は日本の酒造りは、戦時中の米不足をきっかけに、伝統的な醸造法が途絶えてしまっています。そして戦後の大量生産の時代を迎え、蔵元は次々に機械や醸造アルコールを使用する安いお酒を大量生産するようになっていきました。
そんな中、寺田本家の当主・寺田啓佐さんは、昔ながらの酒造りを取り戻そうと決意をします。そして機械を処分し、蔵人の手で作る本来の酒造りを復活させたのでした。

「自然酒」と冠される寺田本家のお酒。その理由は、地元神崎の農家が有機栽培で育てたおいしいお米を使い、自然の発酵スピードに合わせて丁寧に時間をかけてお酒にしていくことにあります。
そんなふうに言葉で書いてしまうと簡単なようですが、実際にはいろんな行程を経て完成しているんです。まずは蒸した米に麹菌を混ぜて麹をつくり、それを元に酒母と呼ばれるお酒の素をつくり、さらに水を加えて発酵させ、絞り、瓶詰めする。この間に蔵人達は発酵の状態にあわせて手をかしていき、時には夜中や明け方に、酒樽をかき混ぜることも。そんな手間と愛情が発酵をさらに進め、おいしいお酒を造っていくのでしょう。
そして寺田さんは私たちに蔵を案内しながら、奥深い発酵の世界の扉を開き、その中へと招き入れてくれたのでした。

寺田本家のお酒は全て、神崎町で作られた無農薬のお米で作られています。そして、消毒液などで菌を殺さず、道具類は全て熱湯消毒。薬品で人為的な環境を作ってひとつの菌だけを育てるのではなく、いろんな菌が共存している自然界のバランスを活かしてお酒を発酵させています。寺田さんは
「健康=清潔ではありません。酒造りでは、人間の考えで菌を選んで発酵するよりも、自然のバランスを大事にすることが必要なのです。人間は発酵の場を整えてあげて、微生物が働きやすい環境をつくることを大事にしています」

この言葉、住んでいる地域の物を食べる「身土不二」の考えに加え、草や虫を敵にしない自然農や、「無為自然」という言葉を思い出させますね。
それから寺田さんは、麹を発酵させる室(むろ)に私たちを案内してくれました。通常の酒蔵では雑菌が入るから入室させない所がほとんどだそうですが、先程のような発酵に対する考え方から、見学者にも公開しているそうです。

「現代の日本の社会は消毒を推進していますが、実はみなさんの腸の中、菌だらけなんですよ。だから、菌を嫌うというのは自己否定していることになるんです。最近では医者の中でもアレルギーが増えたのは消毒のし過ぎと指摘する人が出てきました。発酵食品をとって菌と仲良くすることは、腸の中を健康に保つのにいいんですよ。昔の人はお味噌やドブロクなど自分で作った発酵食品をたくさんとって、医者にかからないようにしていたそうです」
などなど、興味深いお話が次々に出てきます。日頃正しいといわれていることが、実はそうでもなかったりする。自然も体も元気にするお酒づくりを通して、そんなメッセージが届いたようでした。そして寺田さんの語り口調がまた、なんともいえず穏やかで、日頃頭に詰め込まれている「こうしなきゃいけない」という思いまでが、自然に溶け出していくようでした。

そして快晴の空の下、一行は天の川公園へ。
ここでは神崎自然塾の鈴木さんが待っていました。雨の日の種まきを、笑顔でサポートしてくれた鈴木さん。雨も楽しかったけど、収穫で大豆が濡れると乾かすのが大変。心配されるところでしたが、今回は空の先まで見えるくらいの見事な快晴! 参加者達のテンションもぐっと上がるところ。……なのですが、実はちょっと問題アリ。実はこの畑、夏の草取りのタイミングが遅れ、大豆が草に負けてしまったというんです。開催前から今年の収穫量はだいぶ少ないだろうと言われていたのでした。

なんていっても、やっぱりみんなで集まるのは楽しい! いるだけどんどんにぎやかになっていきます。今日が初農作業という人達もいて、初対面も多かったにもかかわらず、会場は徐々に盛り上がりを見せてきました。因みにここに来る前、寺田本家でいただいたのは日本酒ではなく甘酒。この盛り上がりがアルコールのお陰ではなかったことも付け加えておきましょう。
畑は茶色くなった大豆の列の中に、大豆よりも背の高い草が混じっている状態。場所によっては完全に草が優勢になっているところがあるものの、思っていたよりも草の量は少なめ。「ほっ」と安心したところで、いざ、作業開始!

大豆は土から根ごと抜いて、固めて集めていきます。しばらく置いて乾燥させることもあるのですが、この日は脱穀も一緒にやりました。鈴木さんが機械を持って来てくれて、畑の端の方は機械で刈り取り、それ以外は刈り取った物を運んで機械にかけました。

大豆は完熟。茶色く固くなったサヤを押すと、パカッと口が開きます。その姿がとっても穫れたてっぽい感じで、なんだか、とってもかわいい。少し触るだけで開いちゃう物もあって、収穫しながらぽろぽろ種まきしてたりもして、そんな緩やかな雰囲気も、種まき大作戦っぽくて、とてもいい感じなんです。やっぱり女の子が多めですが、みんなとびきりのいい顔。青く高く澄んだ空の下で、ぽかぽかの太陽の光に照らされて、畑の中では笑顔の花が輝いていました。そして大豆を抜き終わった畑では、誰からともなく、大豆拾いが始まっていたのでした。


「うーん、去年の1/3だね」
と鈴木さんはちょっぴり残念そう。実はここは一昨年は田んぼとして使っていたところで、去年大豆に切り替えた場所。切り替えた最初の年は草が生えにくいのだそうですが、二年目になると草もぐっと生えやすくなるのだとか。とはいっても、4反と結構な広さがあるので、袋に入っているのを見るとそこそこの量になっています。大体120キロくらいはあるだろうと言っていました。

そして、この豆で味噌を仕込んじゃおうという企画も既に仕込み済み。味噌仕込みは来年の2月7日。みんなで発酵の町で仕込みます。自分で作った豆から仕込めるなんて、なんだか面白そうですね。
そして、畑から天の川公園に戻ると餅つきが始まっていました。その横では寺田本家の若夫婦、勝さんと幸子さんが粕汁と酒粕料理を振るまい、こうざき自然塾の豆で仕込んだ甘?いあったか湯豆腐も準備されていました。
神崎に来て一番嬉しいのが、この地元の人達の温かいもてなし。おいしいのはもちろん、いつも自然体で、そして愛情一杯で迎えてくれるのがとっても嬉しくて、一度来るとまた来たくなってしまうから不思議です。この日だけのただ一瞬なんだけど、なんだか自分が村の一部になったような、そんな安心感に包まれるのです。この日も、帰ってくる場所がひとつ増えたようなやさしい気持ちにさせてくれました。
心がぽかぽか温まった初冬の一日。帰りのバスの窓からは、夕日に浮かぶ富士山が。そして成田に向かう飛行機の影。絵に書いたような完璧な美しさの風景が闇へとかわり、やがて素敵な一日が幕を閉じていく。
「また二月に来るよ!」
そんな言葉と一緒に、バスは東京へと向かっていきました。